NEW!!! 研究インタビュー(農学部 成澤先生) ~エンドファイト(植物内生菌)を活用し、次世代の農法スタイルの提言へとつなげる~

エンドファイト(植物内生菌)と呼ばれる微生物を活用し、人々が本来営んでいたような健康的な食生活を取り戻すために研究を続けている成澤先生。大量生産・消費されている現代の食生活を見直すヒントがここにありました。目に見えないような小さな微生物が秘める大きな可能性を探ります。


農学部 教授 成澤 才彦

―先生は、どのような経緯でご専門である生態・環境系の研究者になられたのですか。

学生時代に「植物の病気」について研究をし、博士号取得後は、ハクサイの病気をどのように抑制するかについて研究をしていました。実は、元々育った家系が食を専門にしていたということもあり、食べること自体がずっと好きでした。おいしい食べ物はどのように作られているのかと考えた時に、いい素材を作るためには土壌の中の微生物の働きが欠かせないことに気付きました。

元来、生物の世界は弱肉強食の世界だと思われており、中でも微生物は決して目立つ存在ではなく、「弱物」扱いされ、これまではあまり一般的に認知されていませんでした。しかし、弱いものには弱いものの働きがあるというように、微生物がいる土壌で育った作物はそうでない作物に比べ、病気への耐性が強く、味もおいしくなることが分かり、結果として生態系を根本的に支えている存在だったのです。

ところが現代の食生活を見てみると、近代農法に移り変わる過程で、農薬を使って作物を育てるなど、決して人間にとって健康的な食生活をしているとは言えません。元々の自然に近い栽培方法のもとで作物を栽培し、人間が健康的な食生活を送れるようになるにはどのような解決策があるのか、と考えていたことが「エンドファイト」をテーマに研究を続ける動機となりました。

植物の生育を支えるエンドファイトの菌糸ネットワーク

 

 

美味しい食べ物を育てるには微生物が鍵となる

―植物と微生物をつなぐ役割をはたす「エンドファイト(植物内生菌)」とは、どのような特徴を持っている菌ですか。

動物が生きていくのに腸内細菌などの常在菌の働きが欠かせないのと同様に、本来、植物にとって微生物の働きは必要不可欠なものです。そのようなお互いに支え合っているような関係は「共生関係」と呼ばれます。菌類の菌糸が植物からの光合成産物である炭素源(ブドウ糖・ショ糖)を供給してもらい、その代わりに、土壌中の窒素やリンを植物に必要な栄養素として提供します。

「エンドファイト」とは、ギリシャ語の「endo(内部の)」「phyte(植物)」という意味で、植物の中に入ることのできる微生物(内生菌)一般を指します。エンドファイトは、苔から樹木にわたり、あらゆる種類の植物の根の中に入り、植物と共生します。例えば、松茸は松の木の根元に菌糸(菌根菌)が集まり、それが植物と一体化してできたものです。他にも、花のランは共生する菌の種類が決まっていて、その菌と共生して初めて発芽します。どちらも、菌類の働きが必要不可欠な植物の一例です。

微生物の叢(そう)と呼ばれる微生物の住処にはたくさんの微生物のつながりがあり、植物と共生関係を持つエンドァイトの中には、リーダー役、脇役など様々な特性を持つものが存在することがわかってきました。ある植物にとって、より良いエンドファイトを根付かせる(培養する)ことができれば美味しい作物が育つことになると思います。その際、先に定着しているという理由だけで、他の菌の侵入を防ぐという「先住効果」が認められているため、植物が発芽して育っていく初期の段階で微生物を根付かせることが重要となります。

エンドファイトを培養する方法としては、基本的に土の中に投与するだけです。まず微生物が住んでいる植物の周辺土壌を採取し、根を洗浄することで微生物を分離します。それを対象となる植物が育っている土壌(他の微生物がいないことが望ましい)に投与すると、自然と菌糸が植物の根の先端に集まっていくのです。

このようにして微生物がうまく共生すると、植物の免疫力が向上するだけでなく、植物に耐暑性を付与したり、逆に耐寒性を付与したりと、様々な効果をもたらすことが分かっています。その中で、本研究では温暖化による高温条件下での植物への耐暑性効果に焦点を当てています。これまでにエンドウ、トマト、水稲などを中心に、微生物を活用した栽培を行っています。先行しているトマトの研究では、味がすっきりとした美味しい作物が出来ることが分かってきました。

今後、広い範囲でこのような耐暑性が付与できると、温暖化により気温上昇している地域でも作物の栽培ができるようになったり、通常の生育時期をずらして栽培することができるようになったりと、農業界における生産性が今より一層高まることが期待されます。

まだこのような取り組みは始まったばかりですが、次世代の農業を発展させるのには、微生物が鍵となると確信しています。

エンドファイトを接種したイネの生育     高温条件により黄化したイネ(左から2番目)がエンドファイトの接種の効果で健全に育っている(左から4番目)。

「第二の緑の革命」を起こす可能性を秘めた新たな農業スタイルの提案

エンドファイトを活用すると、今後どのようなことが期待できるのでしょうか。また、それを実現するための課題はどのようなところにあるか。

植物も微生物と共生関係を結ぶことで、良い作物になると思います。しかし、ここ40~50年間、戦後の食糧増産による近代農業における化学肥料や農薬を使った農法が主流となり、その結果、本来植物が持っていた微生物と共生関係を結ぶための遺伝子が働く必要がなくなり、両者の関係性は断ち切られてしまってきています。共生微生物のいない土壌では、植物病原菌や病害虫が繁殖しやすくなり、再び農薬を使用することになり、結果として環境に対して大幅な負荷をかけることになります。この流れを、自然に近いかたちに戻そうと、生産者の方々や研究者が協力して、有機栽培や自然栽培に見られるような本来の生態系に近い環境における作物の栽培が行われています。

微生物を培養すること自体は手間もコストもあまりかかりません。ですが、微生物をうまく培養できる時とそうではない時があり、うまくいかない場合はどのような要素(栄養分など)が足りていないのか、その要因を判別するためのスクリーニング検査及びデータ集積には大変な時間とコストがかかります。

そこで期待されているのが、IT技術の進歩です。最近では、人間の腸内細菌をDNAレベルで解析し、うつ病などの病気や性格診断の判断材料として、今後の治療にも活用できる程度にまで遺伝子解析技術が進んできました。

このような遺伝子解析技術は今後の農業界に応用できるとして大いに期待されています。例えば畑の表面にセンサーを当てることで、植物の根の環境(微生物叢)を瞬時に解析し、そこに不足している微生物の情報を特定できるようになる。このような技術が開発されると、どのような環境においても最善の微生物環境を整えられ、美味しい作物を育てることが可能となると考えます。

このように、自然に近いかたちの農法の大切さを科学的に検証することで、本来の生物叢を人工的に再現でき、誰でも使えるような技術の提供ができれば、持続可能な作物の栽培が広まると思います。

このような有用な微生物を活用した新たな農業スタイルは、近代農法に変わる、「第二の緑の革命」を起こす可能性を秘め、次世代の農業界において大いに期待されています。

 

 

世の中の微生物に対する意識の変化を今後の研究の発展へとつなげていく

―今後、効果が大いに期待される研究であるという印象を受けますが、研究をさらに発展させていくにはどのようなことが有効でしょうか。

以前まで、「微生物」という言葉は一般的には馴染みがなく、ましてやその研究に対しての関心は薄いものでした。最近では、腸内環境を自分でコントロールし、改善できるということが認識されてきたため、徐々にではありますが、微生物に対する一般的な関心は以前よりも高まってきていると感じています。

さらに最近ではSDGs(持続可能な開発目標)の概念が広まってきたこともあり、農業分野に特化していない民間企業の方からもお声がけを頂き、いくつか共同研究を行っています。企業の経営者の方は、「物を作って売るという従来のスタイルではなく、環境に配慮しながら物を作るプロセスの重要性を消費者側は以前より求めるようになった」と感じているようです。このように産業界においても、異業種分野の間で連携しながら、環境に配慮して物作りをしていくことは今後欠かせないことであると思います。

 

―これまで、農業・生態系分野の研究はICASの中でどのような成果を上げてきたのでしょうか。

気候変動からの影響被害を受ける現代において、ICASにおける農業・生態系分野は、環境・適応・科学の3つの柱を軸に環境に適応していくシステムを構築してきました。今後は、これまでのシステムを使って、本来の植生を再構築し、その結果、実践的な農法スタイルの提言へとつなげて行けたらと思います。

 

自ら考えた行動の結果、失敗してもいい

―学生へ向けて、メッセージをお願いします。

私が思う良い学生とは、「失敗をたくさんする学生」です。何かで失敗したとしても、それは自分で考えて行動した結果であり、失敗で終わらせるのではなく、次回の行動に生かして行く、この体験を積み重ねていける学生になってもらいたいと思います。これに加えて、「みんなと違った物の見方を大事にする」ということです。例えば自分の研究室の学生から実現が難しいと思われる研究の提案があったとしても、毎度背中を押すようにしています。この点に関しては、共同研究している企業の社長さんとも意見が合い、物による差別化ができない現代において、これまで通りの物づくりのやり方ではなく、従来と違った試みこそ大切にしようと社員に呼びかけているそうです。今後、社会に出ていく上で、このような心がけは重要なことだと思っています。